本の感想日記

読書の感想などを書く日記代わりのブログです。

アニメ・マクロスFの補完になるノベライズ作品、小説版『マクロスフロンティア』

小説版『マクロスフロンティア』は、小太刀右京による全4巻の小説です。1巻からそれぞれ

・クロース・エンカウンター

・ブレイク・ダウン

・アナタノオト

トライアングラー

というサブタイトルが付けられています。アニメ見てると懐かしい名前ですね。

これらは、2008年に放送されたマクロスシリーズの25周年記念作品である「マクロスF」のノベライズ作品です。

 

マクロスFで語られなかった物語も読みたい!という人にはオススメです。反対に、アニメのBlu-rayの代わりに此方の購入を考えている人にはオススメできません。

 

あらすじ

物語の本筋はアニメ版と変わりません。

第一次星間大戦が勃発し、壮絶な戦いにより地球は死の星に変貌する。地球を再生させると共に、星間大戦の再発に備え、決戦を乗り越えた人類と一部のゼントラーディ人は「宇宙移民計画」を立案。そして、超長距離移民船団が結成され、新たな新天地を求めた銀河への果てしない旅路が始まった。

マクロスフロンティアは、時系列的には第一次星間大戦から半世紀後。舞台は第25次新マクロス級移民船団マクロス・フロンティア。フロンティアは、医療目的以外のインプラント技術(サイボーグ化のようなモノ)が禁止されており、船団の中には地球の環境を再現した船も存在する自然感重視の船団である。

そのフロンティアに、銀河の歌姫と呼ばれるシンガー「シェリル・ノーム」が来訪するところから物語は始まる。シェリルのファンで歌手になりたいと願う少女「ランカ・リー」。本物の空に憧れパイロットを目指す「早乙女アルト」。彼ら3人は、歌手として、観客として、アクロバットスタッフとして、それぞれシェリルのコンサートに集う。しかし、コンサートの途中でフロンティアは謎の地球外生命体「バジュラ」による襲撃を受け、フロンティア船団はバジュラとの戦いに身を投じていくことになっていく。

フロンティアがバジュラによる襲撃を受けた際、街中に出たアルトは目の前で命を落としたパイロットが遺したVF-25に乗り込み、恐怖とトラウマによって動くことが出来なくなったランカを救う。しかし、コピック内でランカがパニックを起こしたことで機位を失い、二人を乗せた機体は増築を繰り返したことにより生まれたフロンティアの地下迷宮に落ちていった。一方、シェリルもバジュラと鉢合わせになり、マネージャーである「グレイス・オコナー」に手より地下に続くシュートに逃される。朽ち掛けの地下街で再び顔を合わせる3人。憧れのシェリルとデュエット出来たことで、より強く歌手になりたいと思いようになったランカ。そして、かつて歌舞伎の天才児として一つの芸術を極めたアルトに、シェリルは個人的な興味を抱くようになる。

犠牲者を出したもののフロンティア船団の旅は続く。アルトは民間軍事会社S.M.Sのパイロットとなり、ランカもアイドルとしてデビューを果たす。平穏な日常に戻ったかに思われたが、暗雲は立ち込める。人生の全てを歌に掛けたシェリルは突然体調を崩し歌うことが困難になる。また、バジュラの生態調査の中でランカの歌にバジュラの戦闘体制を混乱させる力があることが判明したことにより、過去に家族を失ったトラウマから戦闘を忌避するランカもバジュラとの交戦に投入されることになった。

ランカの歌によりバジュラの勢力圏からのフォールドに成功したフロンティア船団だったが、既に船内に潜伏していたバジュラの幼生が一斉に羽化したことで、壊滅的な被害を受けてしまう。事態を収束させるため、ランカの歌でバジュラを集め、一気にフォールド爆弾で飲み込んだ。英雄として祭り上げられるランカだったが、人類の中で唯一バジュラとコミュニケーションが取れる彼女にとって、バジュラと人間の屍の重さは同じであり、先の作戦は虐殺と同義だった。せめて仲良くなったバジュラの子どもだけでも仲間の元に返すべく、ランカはフロンティア船団から離別。英雄から裏切り者へと名を落とす。

家族を失い誰からも見向きもされない孤児として貧しい幼少期を過ごしていたシェリルは、歌によって今の名声を手に入れており、歌うことが彼女の全てだった。しかし、体調不良による活動休止の間に、ランカが歌により文字通り「人類を救った」ことを目の当たりにし焦燥感を覚えるようになる。そんな最中、シェリルはグレイスがランカのマネージャーになったことを知る。自分に何の知らせもなかったことでシェリルがグレイスを問い詰めたところ、グレイスは衝撃の事実を口にする。シェリルは治療法のないV型感染症の罹患者であり、命を落とす運命にあると。一度は歌を捨てようとまでしたシェリルだが、船内で羽化したバジュラによる攻撃の中で、平穏をくれたフロンティアでの日々を思い出し、それに応えるために再び歌うことを決意する。

アルトは戦禍で友人のミシェルを亡くし、バジュラを憎みあまりランカからも別れを告げられ、そして、シェリルの命がもうすぐ尽きることを知らされる。また、新政府の陰謀を知ったS.M.Sは、アルトを含む一部の隊員を除き、混乱の中にあるフロンティア船団を離脱する。残されたアルトは政府軍に従事し、シェリルと残された時間を過ごしながら、フロンティア船団本来の目的である新天地を目指す。

新天地に選ばれた惑星はバジュラの星だった。V型感染症に冒されたことでランカと同じ能力を得たことを知らされたシェリルは、アルトと共に星を賭けた戦いに挑む。一時は優勢に思えたバジュラとの決戦だったが、操られ自我を無くしたランカが現れたことで戦況は逆転する。絶体絶命のフロンティア船団の前に、離脱した筈のS.M.Sが現れる。S.M.Sは新政府の不正を掴んでおり、また、船団に残されたアルト達も独自のルートを使ってその情報を各方面にリークしていた。アルトはランカが助けたバジュラの幼体と協力し、ランカの意識を取り戻すことに成功する。ランカの歌で、シェリルの体を蝕んでいた細菌が無害なものへと変わっていく。ランカとシェリル、二人の歌が銀河に響き、人類を巨大な群体生命だと考えていたバジュラの誤解が解かれた。バジュラは最初に受けた攻撃が人類の総意ではないこと、人類にも自分たちとの戦いを望まない者がいることを理解し、人類と和解することを選ぶ。しかし、同じ銀河にいれば戦いは避けられないからと、バジュラは別の銀河へ去っていく。フロンティア船団はバジュラが残した星に降り、新しい未来が始まるーー。

 

感想

楽しめる人は選ぶと思うけど、個人的にはすごく面白かったです。

先にも言った通り、話の大筋はアニメ版とは変わりません。ただ、端々に結構な違いがあります。元々25話のアニメを4冊にまとめているので削られているエピソードがあったり、アニメ版にはない登場人物の過去が描かれていたりーーアニメ版とは違う印象を与えます。なので、登場人物のアニメ版のキャラクター性が好きで、それ以外は解釈違いと言う方には強くお薦めは出来ません。逆に、アニメ版とは少し違った「マクロスF」を見たい方や、アニメ版の補完をしたい方にはお薦めです。特に、大人組が好きだったり、マクロスF以前の作品を知っている方は楽しめるかもしれません。

また、購入前に見たレビューの中には出てくる単語がよく分からないと言う意見もありましたが、雰囲気さえ分かれば意外と大丈夫でした。敢えて言うなら、造語以外にも、普段は使わないような言い回しをする単語が出てくるようには感じました。

 

※ここから先は、すごく個人的な感想になります。

 

大人組が好きだった人にはお薦めだと述べましたが、それはズバリ私自身がそのタイプでした。アニメを見てから私は「キャシー・グラス」推しでした。小説を読んでからは「グラス親子」推しに変わりました。ここが、もうピンポイントで、個人的にすごく面白かった部分です。

一言で言うと、小説版だと「ハワード・グラス」がきちんとした大人でした‼︎

「ん?」と思われる方もいるでしょう。まず、ハワードが誰だか分からない人のために説明すると、彼はフロンティア船団の第4代大統領です。キノコ頭の補佐官に暗殺された、あの人。名前の付いている登場人物の中では出番が少なく、キャシーの父親だから印象に残っていましたが、キャシーと関係がなかったら名前も覚えず「大統領」で終わっていたかもしれません。

さて。アニメ版のハワードは影が薄いだけでなく、典型的な無能政治家として描かれていたように思えます。首席補佐官に言いように使われている印象が強いです。映画版だと、そこに非人道さが加わってますます悪印象です。なので、私はアニメ版と映画版のフロンティアに常々疑問を感じていました。どこにと言うとーーグラス親子の関係性に。

元々、アニメ版と映画版の中に、キャシーとハワードの個人的な会話はあまりなかったです(と私は記憶しています)。冒頭の電話のシーンは、言葉を交わしているとは言え、仕事用の通話でした。それでも、キャシーの言動から、家庭に問題を抱える人物が多いフロンティアの中で、グラス親子は良好な関係を築けていそうな雰囲気を感じます。

【親子の仲を示していそうなキャシーの言動】

(1)割と頻繁に「大統領、父」と「お父様」とを言い間違える

(2)ハワードの不正を疑いはするものの、基本的には信じている

(3)↑実際に映画版では、ギャラクシー船団を見捨てると言う非道な決断をハワードがする筈がないと主張し、事実を知ってショックを受ける

(4)婚約者より父親優先

(5)父親の死に号泣

etc......

キャシーはお父さんっ子なのか、可愛いなぁ〜と見ていたことを思い出します。

しかし、娘のキャシー側からハワードに対する描写に感じた疑問が一つ。キャシーはハワードを尊敬しているように思えます。言い方が悪くなりますが、「キャシーはハワードの何処ら辺を尊敬しているのだろうか」と言う疑問です。無論、大統領に就任する位なので、描写されなかっただけで有能だとは思いますが。どうしても、ハワードは日見寄りで部下に踊らされている印象が強いです。また、「ハワードがキャシーをどう見ていたか」と言うことも描かれていません。これは、ストーリーの展開上なくても当然なんですが、やっぱり自分の好きな登場人物に関係する情報はどうしても気になってしまうものでした。

しかし!アニメ版で解消出来なかったその不満が、小説版では解消されます!!

小説版でハワードの株は上昇。行動が大きく変わった訳ではありませんが、内面描写が入ったことで、彼が自分の限界を感じながらも上手く立ち回ろうとしていたことが分かりました。戦時下の政治家としては優しすぎて欠点は多かったけど、親としては十分立派な人でした。

以下、小説からの引用です。Kindle購入なので、ページ数ではなく位置No.の表記です。

人々は彼を英雄とたたえるだろう。だが、そんなことを彼は望まなかった。任期を大過なくまっとうし、次の世代に船団を引継ぎ、そしていつか緑の星に移民する。それだけでよかったのだ。

(私はただ、娘に揺れない大地と、青い海を与えてやりたかっただけなのに)

バジュラが憎かった。そしてそれ以上に、彼は自分が憎かった。卓越した行政官としての手腕も、粘り強いネゴシエーターとしての実力も、宇宙の戦場では何一つ役に立たない。クリケットの応援席に座ることが出来るのと、クリケットをするのにはあまりにも違いが有りすぎる。

 

出典:小太刀右京マクロスフロンティア VOL.2 ブレイク・ダウン』、東京:角川スニーカー文庫、位置No.4058-4065

自分の能力が戦争に役立つものではないことを知っていながら、彼は娘を含めた次世代に希望を託すために、椅子から退くことはしませんでした。ハワードの最期はアニメ版と同じで、三島の陰謀により銃殺されてしまいます。その最期のときにも、ハワードはキャシーの未来を願っています。割と、本気で、自分の好み過ぎてビックリしました。アニメ・映画版でキャシーが見せた父親への信頼。小説版のハワードは、その信頼に応えています。

 

まとめると、私がそうだったように、ピンポイントでウケる人には凄くウケる小説です。アニメの余白を埋めると言う意味では、楽しめる人も多そうです。因みに、主観ですが、登場人物の精神年齢が全体的に上がっているように感じました。アニメ版より生々しい描写が出てきますが、そんなにガッツリしたものはないので、潔癖でなかれば大丈夫だと思います。