本の感想日記

読書の感想などを書く日記代わりのブログです。

新感覚‼︎本格ミステリ『屍人荘の殺人』

『屍人荘の殺人』は、今村昌弘による、ミステリ小説です。

2019年に映画化もしている小説です。私は映画は見ずに小説だけを読みましたが、成程映像化が成功しそうな作品だと思いました。エピソードの中に、画面映えしそうなシーンが幾つも出てきます。この小説の最大の特徴は「超常現象が起こる推理モノ」であるということです。作品のジャンルはミステリですが、個人的にはホラー・ミステリ(もしくは、SFミステリ)と呼びたいです。およそ有り得ない事態が作中で進行しています。しかし、肝心の推理要素もしっかり組まれており、本格ミステリとしても楽しめます。国内ミステリーランキング4冠を達成している小説です。

 

新感覚なミステリが読みたい!という人にはオススメです。今までにないミステリ展開です。反対に、古典ミステリの雰囲気を壊したくない人ミステリに超科学は御法度だと考えている人にはオススメ出来ないと思います。

 

あらすじ

ミステリー好きの大学一年生「葉村譲」は、大学入学時にミステリ研究会に入るも、周囲との情熱の差にうんざりしていた。そんなとき、「ミステリ愛好会の会長」を自称する三年生「明智恭介」に声を掛けられる。趣味談義で明智と意気投合した葉村は、その日のうちにミステリ愛好会に入ることを宣言する。

明智は常に「本物の事件を解決したい」と考えて行動するため、怪しい噂に積極的に首を突っ込んでいく破天荒な人物。そんな彼が次に目を付けたのは、映画研究部の夏合宿。夏のペンションに浪漫を感じた明智は「同行したい」と映画研究部に突撃するが、勿論断られ撃沈。諦めきれない明智と彼を嗜める葉村の前に、不思議な美少女「剣崎比留子」が現れる。剣崎は自分と取引をする代わりに、剣崎に同行する形で映画研究部の夏合宿に参加しないかと提案する。

八月。葉村と明智が飛び入り参加した映画研究部の合宿の雰囲気はどこかピリついていた。合宿は表向きは映像撮影という目的を掲げているが、実際はOBが主催するコンパの場だった。そして、昨年の合宿で起きた諍いが原因で、大学を退学した者がいたのだという話を聞く。不穏な空気の中、夕食のバーベキューで葉村が大切にしていた時計が盗まれてしまう。明智と剣崎による犯人探しが行われるも、結局時計は戻って来ず、葉村は絶対に取り戻すことを心に決めながらも「今日は諦める」と事態を収める。そして、その後行われた肝試しで「事件」が起きる。なんとゾンビが現れ、人間を襲い始めたのだ。

明智を含め犠牲者を出しつつも、葉村たちはペンションの二階と三階に籠城することに成功する。携帯も電話も繋がらない状況で不安のまま一夜を過ごした面々だったが、翌朝、三階の部屋に泊まっていた筈の演劇研究部員がゾンビに喰い殺された姿で見つかる。バリケードは崩されておらず、また、部員を襲ったゾンビの姿もない。そして、部屋からは明らかに人の手で残された「いただきます」「ごちそうさま」という文字が書かれたメモが見つかる。部員を殺したのはゾンビか、人間か。葉村と剣崎は事件の真相を解き明かそうと推理を始めるが、ゾンビの猛攻は終わらない。ついに、二階にもゾンビが進入を始める。それと同時にペンションのエレベーターの中で二つ目の死体と「あと一人。必ず喰いに行く」というメモが見つかる。

今まで曖昧な体でゾンビの情報を伝えていたニュースだったが、ついに官房長官が現れる事態になる。ゾンビ化の原因がある大学准教授による殺人ウイルスのばら撒きであることが分かるものの、自衛隊の救出にはまだ時間が掛かってしまう。殺人予告に怯え、部屋に閉じ籠る人物も出てくる中で、ついには三階の非常扉がゾンビによって破られる。三つ目の死体が見つかるも、そのまま屋上へと続く階段がある倉庫に逃げ込む算段をする生存者たち。そのとき、生き残った映画研究部員の一人が剣崎に尋ねる。貴方には既に犯人が分かっているのではないかーーと。

剣崎は静かなため息をついた。彼女はある人物を思いやって、今まで口を噤んでいたのだ。しかし、断固たる意志で真実を知りたいと述べる部員を前に、剣崎はやっと口を開く。そして、ついに審判のときが始まる。

 

感想

ソンビが出てくるミステリだからと敬遠していたら勿体ない。私は知らずに読み初めしたが、そう思わせてくれる力がある小説でした。古典ミステリとは様相が異なるものの、私は本格ミステリとして楽しめました。

この小説の特徴は、やはりゾンビが出てくること。公式では伏せられている事実なので、事前にネタバレを見ない限り、読んでからのお楽しみということになります。私もネタバレを見ずに読み始めたので「あぁ、屍人荘ってそういう……」と衝撃を喰らいました。ゾンビが出てきた時点では小野不由美先生の「ゴーストハンター」シリーズのようになっていくのか?と読み進めましたが、超科学とミステリとで全く違う展開をします。『屍人荘の殺人』で起きる超常現象(ゾンビ)の法則はより厳格であり、それ故に人為的な殺人のトリックに活用されたり、そのトリックを探偵役が解き明かせたりが出来たのかなと思います。

また、小説に隠された(隠れてはいない)ギミックにより細部まで読み込んだ読者なら探偵役と同じタイミングで犯人を当てることが出来るようになっています。私は剣崎さんの推理を読むまで、それに気付きませんでした。読んでから、ページを捲って「あ、本当だ」となった方の人間です。ミステリ小説では定番のコレを推理に絡めるか〜とある種の感動を覚えました。館を舞台にするミステリならでは、という感じでした。

個人的に少し残念だったことは、大層な姓を持つ明智があっさり脱落したことです。読み返すと本当に「え、ここで?」というタイミングで消えます。ミステリに探偵二人はいらないという位バッサリと。剣崎さんの事件を惹きつける体質はコナンや金田一少年に似ているので、服部平次明智健悟のようにライバル役がいても良かったのに…と、正直思いました。でも、剣崎さんと明智では踏んだ場数が違うのでワンサイドゲームになってしまうのか…?

最後に、真犯人の動機について。簡潔に言うと「復讐殺人」だったんですが、殺害方法にゾンビを使った理由がちゃんと動機に絡んでいて驚きました。個人的に、復讐を動機とした場合、犯人に共感できることは殆どありません。今回も動機にそこまで共感はしませんでしたが、犯人がトリックを組み上げる中で重要な意味を持っていたため、「そうだったんだ」という納得を得ることが出来ました。