本の感想日記

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【漫画感想・ネタバレ】『不滅のあなたへ(1)』1話

不滅のあなたへ』は、大今良時による、少年漫画です。ジャンルは大河ファンタジー第43回講談社漫画賞少年部門受賞作で、2020年10月からはアニメ放送も予定されています。また、作者の大今先生は聲の形を描いたことで有名です。

実は以前に無料公開されていた一話を読んだことがありました。そのときはサラッと読んで終わりでしたが、アニメ化するなら読んでみようかなと思い立ちました。

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自分は現金な人間なので、無料に弱いです。

1巻には、1話から4話のエピソードが収録されています。

#1「最後のひとり」

謎の手が拳を握っている。手が開かれると、そこには球体が現れる。指先で支えられた球体は次第に指先を離れ、上空へと浮かんでいく。

球体の形をした”それ”はありとあらゆるものの姿を写し、変化することができる。”それ”の持ち主は「観察」のために”それ”を世界に放った。”それ”は石にぶつかり石に変化した。季節が巡るほどの期間ずっと石のままであったが、雪に降り始めた頃に、”それ”の前で息絶えたオオカミの姿を写しとった。”それ”は意識と動くための足を手に入れた。オオカミの姿で当てもなく歩き続けること2ヶ月間。オオカミの姿になった”それ”を「ジョアン」と呼ぶ少年の小屋に辿り着く。沢山の知らないものと屋内の温もり。”それ”にとって、少年の寝床は魅力的な空間だった。

少年は雪に包まれる朽ちかけの集落に住んでいた。ただ一人となった少年は集落の廃屋から木材を確保し、魚を釣って自給自足の生活を続けている。5年前、少年と集落の老人を残し「楽園」を探しに行ったまま帰ってこない集落の住人を待つ続けながら。ある日、少年が亡くなった老人達の墓参りをしていたとき、少年の小屋の方向からシャラシャラと音が響く。何かあったときの鳴子の」音だった。少年は興奮しながら走り帰り、小屋の扉を開けるが中には誰もいない。鳴子は魚が釣れたことを知らせただけだった。少年は「久々の大物だ」と空元気に大声を上げた。

魚を解体し食べ始めようとした少年は”それ”が魚に口を付けていないことに気付く。”それ”を飼っていたジョアンと勘違いしたままの少年は不思議に思いながらも、”それ”の目の前で魚を口に含み嚥下した後「ホラ」と口の中を見せて魚が安全だと伝える。”それ”は魚を食べ始める。魚の頭部に噛り付き、咀嚼して、飲み込むーーそして、「ホラ」と少年の前で口を開けた。少年は”それ”を見つめながら「なんだ、食べられるじゃないか」と言った。

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漫画の感想じゃないけど、動物描ける人って凄いなと思います。

少年は小屋の壁に何人もの似顔絵を描いている。ここに人がいたことが分かるように、自分が彼らを忘れないように祈りながら。少年は集落の住人を追うことを決意した。色々な人に会って色々なことを感じたい、なにより、世界を知りたいと思いながら。

旅路の準備を終え、いよいよ少年は”それ”と共に集落を出る。だいぶ歩き海がほとんど見えなくなり、少年はここまで来たのは初めてだとはしゃぐ。歩き続ける少年は雪の中に人為的に立てられたような石を見つける。石に積もる雪を手で払うと、石には矢印が描かれていた。少年は自分と同じように楽園を目指していた人が後の人のために残しておいてくれたのだと喜びの声を上げた。希望に満ちた少年はささやかな願いを口にする。野菜を食べたい、甘い果実を食べてみたい。熱が冷めぬ様子で、少年は自由を実感していた。

少年は矢印の描かれた石を頼りに旅を続ける。見つけるたびに進路があっているのだと安心と喜びを得ていたが、時間が経過し雪の降る季節になってしまう。そんな中、少年は低木を見つける。今まで少年が暮らしていた土地に木はなく、少年は目的地に近付いてきた証拠だと胸を躍らせる。足りなくなった薪き木用に枝を回収し再出発しとうとした少年の目に雪の中に埋もれる石が写る。人工的なものだが矢印の描かれている石とは違う。しかし、少年は石に見覚えがあった。その石は、少年の集落に残されたお墓とよく似ていてーー。

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記憶に残ってなかったので、多分二度目で気付きました。

石に気を取られた少年は川に気付かず落ちてします。這い出すことには成功したものの少年は右の太腿に怪我を負ってします。応急処置を済ませた後、少年は旅を再開させる。怪我は悪化していくが、少年は「皆と同じ場所に行く!」と歩き続ける。返答を返すことのない、まだジョアンと勘違いしたままの”それ”に話し掛けながら。

少年は雪の中に何かが描かれた石を見つける。無言のままに雪を払うと、石に描かれたのは矢印と矢印の上から重ねられたバツ印。周囲を見渡すと朽ちた車と輓獣の骨、集落にあるものと同じ墓を見つける。少年は無理矢理元気を出そうとするが声が萎んでいく。泣きながら少年は集落にある小屋に帰ることを決める。

尽きかけの体力で最後じゃオオカミの姿になった”それ”に引きづられるように少年は小屋に辿り着く。食料の備えもなく、また、怪我は深刻な状態になっていた。少年は熱に苦しめられながらも、顔を覗き込んでくる"それ"に笑顔を返す。自分の死期を悟り、少年は這いつくばりながら椅子に座る。もし、誰かが帰ってきたとき、寝ているより座っている方がかっこいいからと。そして、やっとの思いで椅子に座り"それ"に向かって言った。

「僕のこと……ずっと覚えていて」

笑顔を浮かべながら少年は息を引き取る。バランスを崩した少年の遺体は椅子から転げ落ちてします。”それ”は少年を椅子に戻そうとするも、オオカミの姿では上手くいかない。”それ”の腕が突然人間の腕に変わる。”それ”の足が、胴体が、そして体が次々と変化する。”それ”は人間になった。遺体となった少年と全く同じ容姿の人間に。

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飄々としているように見えて、少年のことを気に掛けていたんだなと思えました。

”それ”は少年の小屋を去っていく。新しい刺激を求めて。少年がかつて夢見た、色々な人に出会い、色々なことを感じるために。

 

感想

この1話は以前に無料公開で読んだことがあるお話です。淡々としていて(少年にとっては)あまり救いのある終わり方ではなかったことで印象に残っていました。

この話の特徴は目的を持って動いているのは”それ”の元々の持ち主であり、話の焦点が当てられているのはただ「観察」されている側であるという点です。そのため、最初の頃は話の目的や主題が分かりません。大河ファンタジーとしてその世界観を楽しむことは十分にできますが、エピソードは今のところ登場人物達がただ理不尽な運命に翻弄されているようにしか見えません。”それ”が変化していくことで、今後良い方向に運べるようになると良いなとは思いました。もしかしたら、それが物語の主題なのかもしれません。

そういえば、気になったことが一つあります。少年の過ごしていた集落は氷と雪に囲まれ、少年の言葉を信じるなら木も生えない土地にあります。しかし、集落の建物には木材が使われており、建物の中には暖炉があります。また、少年は「野菜は昔食べたことがある」と言っています。つまり、以前はそれらが集落に届くような流通があった筈です。少年が一人で過ごしていたときにはそのようなものが集落に訪れた気配はありません。少年はいつも魚を釣って食べていたようですし、暖炉にも廃屋の木材を使っていました。何があったか分かりませんが流通が止まったことがきっかけになって集落の人間は「楽園」を目指したのかもと私は予想しました。しかし、過去に交流があったのなら目的地まで辿り着いている住人がいてもおかしくはないと思いますが、少年の集落の人間は本当に全滅したのでしょうか。「行き止まり」には結構な数の墓がありましたが、それをその場所に建てた人間も集落の人間の可能性が高いような気がします。その人も同じ場所に骨を埋めたのでしょうか。また、恐らく「楽園」は2話からの舞台だと思われます。向かっていた方向自体は合っていたんですよね。少年が諦めず「行き止まり」から倍の距離を歩いていれば目的地に辿り着くことは可能だったのでしょうか。と、ちょっとモヤモヤしました。